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2024年04月08日2024年04月08日

所得税

法人・個人の判断と源泉徴収

みなさん、こんにちは。世田谷区で税理士をしている井戸川です。

久しぶりにちゃんとしたブログを書く気がします・・・(笑)

新年度とともに気持ちを入れ替え少しでもみなさまの役に立つ情報を提供できればと思っております。

 

 

法人なのか個人なのか

さて、2024年4月2日にこんなニュースがありました。

 

岡山県真庭市役所は、個人事業主に支払う報酬につき所得税の源泉徴収をおこなっていなかったことを所轄税務署から指導を受け、延滞税および不納付加算税とともに納付した。源泉徴収誤りの原因は、屋号を使用している個人事業主について、源泉徴収の必要のない法人と誤認していたためである。

 

真庭市のニュースリリース

 

お堅くきっちりしているイメージの自治体でも間違うことがあるんだなと驚くとともに、今回の事例については私たちにとっても勘違いしやすい内容でしたので、ここで共有をさせていただきたいと思います。

 

 

源泉徴収義務

そもそも、税金を収入として受け取る側の自治体が源泉徴収をして税務署へ納税するの?という疑問があるかもしれません。税金の種類によって自治体の納税義務の有無は異なりますが、源泉所得税については、官公庁なども源泉徴収義務者になると定められています。ちなみに、一般企業や個人事業主、NPO法人や一般社団法人なども当然に源泉徴収義務者となります。

 

参考リンク(国税庁HP)

 

 

源泉徴収すべき報酬

どのような報酬を支払う場合に源泉徴収しなければならないのかについては、個人に対するものと法人に対するものとで分けられます。リンク先の国税庁資料をご参考いただくとわかるように、個人に対して支払う報酬については多くのものについて源泉徴収が求められるのに対し、法人に対して支払う報酬については馬主の賞金に限られています。そのため、実務的には法人に対して報酬を支払う場合には源泉徴収を気にすることはないため楽なのですが、個人に対して報酬を支払う場合にはその支払いが源泉徴収対象であるかどうかの判断が大変になってきます。

 

参考リンク(国税庁HP)

 

 

法人か個人事業主かの判断

今回のメインはここからとなりますが、真庭市が源泉所得税の申告を誤ったのは、報酬を支払う先が個人事業主であるにも関わらず、法人だと勘違いしてしまったことにあります。前述したように、法人に対して報酬を支払う場合には源泉徴収するということはほぼありません。一方で個人に対しての報酬であれば源泉徴収すべきかどうかはよくよく検討しなければなりません。

 

個人と法人を間違うなんてそんなバカなと思うかもしれませんが、勘違いされている方も多いのではと私は思います。どういうことかというと、報酬を銀行振込する際、法人であれば、「●●株式会社 代表取締役 井戸川真也」のように振込先に会社名と代表者名が表示されるのが一般的です。一方で個人への振込であれば、「井戸川真也」のように個人名だけが基本です。しかしながら、個人事業主で屋号を持っている場合、「●●商店 井戸川真也」のように屋号と個人名を併記して銀行口座の登録を行っている方も少なくありません。そうするとこの屋号を会社名と勘違いしてしまうこともあるのではないでしょうか。

 

法人名なのか、個人事業主の屋号なのかを判断する方法の1つは、その法人名(屋号)の中に法人格が含まれているかどうかです。法人格とは、例えば、「株式会社」「有限会社」「合同会社」「一般社団法人」「特定非営利活動法人(NPO法人)」などをいいます。

 

したがって、「●●商店」は法人ではありません。もし法人であるならば、「●●商店株式会社」というように前か後ろに必ず法人格がつきます。

 

レアケースとして、法人成りしたばかりで、法人名義の口座開設が間に合わずに個人名義の口座を使っていますという法人はいるかもしれませんが、その場合は、法人番号を確認したり登記簿謄本を確認したりという作業が必要かもしれません。源泉徴収事務にそこまでの手間暇をかけるかどうか疑問もありますが、源泉徴収義務者の責任として、源泉徴収の有無の判断努力について厳しくみられた裁判例もありますので、できることはしておくという気持ちが大事だと思います。

 

 

支払先が任意団体(人格のない社団等)の場合

ところで、さらに厄介な判断が待ち受けているのは任意団体です。例えば、「●●を守る会」のような法人格はついていないけど団体名っぽいなという場合です。法人格がついていないので、個人事業主だ!と判断するのは早計です。

 

税務上、任意団体は法人として取り扱うことになっているため、法人格がなくても法人となります(所得税法4条)。しかし、厳密にいうと法人とみなされる任意団体と個人とみなされる任意団体があることを知っておく必要があります。

 

具体的には、任意団体として会則などのルールがあり、代表者が定められているかということです(所得税法2条1項8号、所得税基本通達2-5、同2-7)。代表者がいないということはあり得ないと思いますが、会則がない場合にはただの個人の延長線上と認定される場合があります。それを、取引先として把握するのは難しいかもしれませんが、任意団体へ報酬を支払う場合には、事前に会則などを確認させてもらい法人とみなされる任意団体なのかどうかを判断する必要がありそうです。

 

 

 

まとめ

以上をまとめると、報酬にかかる源泉徴収の判断は次のような流れになるでしょう。報酬にかかる源泉徴収事務は民間企業においても非営利企業においても頻繁に発生する作業です。だからこそ思い違いなども起こりうるものだと思います。ぜひこの機会に改めて見直していただけると幸いです。

 

①報酬の支払い先が法人か個人かを確認する

法人格がついている→法人

法人格はないが団体名がついている→会則等があれば法人、なければ個人の可能性あり

屋号がついている→個人

個人名のみ→個人

 

②報酬の内容が源泉対象かを確認する

支払先が法人→馬主の賞金のみ源泉対象

支払先が個人→上記3にリンクした対象報酬一覧に該当するものは源泉対象

 

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