ブログ

2022年03月28日2022年03月23日

ブログ

ななみの海

こんにちは、世田谷区で税理士をしている井戸川です。

確定申告も終わり、少し落ち着いてきたので読書にふけっていました。

今回は、読書感想文的なことに税金のお話も少し交えて書いていこうと思います。

 

ななみの海

今回読んだ本はタイトルの通り『ななみの海』です。

そもそも小説とかはあまり読まない方なのですが、『ななみの海』が児童養護施設を舞台としたお話だということに興味をひき読もうと思いました。主人公は児童養護施設で生活をしている女子高生ななみ、ななみを中心として施設や学校での人間関係などを描いた作品です。

 

施設で生活しながら進学校に進み、良い大学を目指すななみと、いわゆる普通の生活を送る同級生との価値観の違いに対する葛藤、同じ施設で生活する他の子どもとななみの考え方や行動の違いに対する葛藤が繊細に表現されており、そして、そのような葛藤の中からななみ自身が変わっていく姿にしばしば感動しながら読み進めました。

 

税金とのつながり

本書の一場面で、施設の子どもが通っている塾で、他の塾生から「税金泥棒」と言われ、施設の中学生女子がその後塾に行かなくなったというお話がありました。そのことについて、ななみが施設の職員とのやり取りで出てきた会話が次のような内容でした。

これは施設長の言葉です。

 

「だから、世の中の大人たちは、自分の稼ぎの中から払えるだけの会費を国に払うことで、警察や病院や消防署からおんなじ安心や安全をもらってるわけだ。そういう大きな『会』に属してるんだよ、全員。それが社会ってやつだ。そんな中で、『税金泥棒』なんて言葉がまかり通ったら、いちばん多く払ってる金持ちが、それより少なくしか払えない他全員に、差額分を『泥棒だ』って決めつけられる、言いっぱなしの、とんでもねえ社会になるぞ。そのいちばんの金持ちだって、ある日突然事故に遭うかもしれない。病気になるかもしれない。そしたらそいつも泥棒だ。そういう時のために……」

 

一般的に「税金泥棒」といえば、公務員などで税金がお給料の原資となっているにもかかわらず、お給料に見合った仕事をしていないとされる場合に使われる言葉だと思います。上記の施設長の「税金泥棒」という言葉のニュアンスが若干違うような気もしますが、もしかしたら施設長がわざと意味をずらしたと考えることもできますね。

 

「税金=会費」は租税教室でも用いることがあります。まぁ、「会費」の意味がわかりやすいかと言えばそうでもないような気がしますが・・・

ただ、租税教室でも強調するのが「無料だと思っているものには税金が使われていることも多い」ということです。文中にもある、警察や消防署もそうですし、普段歩いている道路も、学校ももちろん税金が使われています。今だとコロナ関連の補助金も税金が原資ですね。

それらは全て、名も知らぬ、どこかに住んでいる国民が、そして私たちが税金を納めているからできているのです。

 

これはやや乱暴な計算になりますが、2022年度国家予算107兆円、日本の人口1億2000万人として1人当たり予算を考えると約90万円となります。そして、90万円を所得税として納めるとすると、給与収入ベースで1000万円以上の稼ぎが必要になるのです。

 

「自分の予算分の税金を納める」というのは一つの目標ですね。

 

子どもの権利

ななみと施設長のやり取りでは子どもの権利にも言及した場面があります。

 

「だって、おまえら、子どもじゃん。未成年じゃん。未成年は、親元で暮らせない時に社会的養護を受けることは権利でもあり、義務なんだ。生きなくちゃいけないからな。税金使ってちゃんと生きて、ちゃんと大人になるっていうことが、今、おまえたちのやらなきゃいけないことなんだ。そういう仕組みも理念も分かってなくて、おまえらみたいな子どもに税金がどうのこうのって言ってくる奴がいたら、そいつはトンチンカンのクソだって思っていればいい」

 

施設長の言葉がここまで乱暴なのは、施設長の考えあってのことだと思いますが、なかなか凄みがありますね。実際もこんな感じなんでしょうか・・・?

まぁ、それは置いておいて。

 

子どもの権利に関する取り決めについては、子どもの権利条約というものがあり、国連で採択され、日本でも1994年に批准しています。そこでは、子どもを養育する責任は第一義的には親にあるけれども(第18条)、虐待などによって家庭では生活できなくなった子どもたちは国が守らなければならない(第19・20条)と定められています。

 

子どもに社会的養護を受ける義務があるのかどうかは議論もあるでしょうが、権利があることは間違いないでしょう。このことを小中学校、高校などの子どもだけの社会の中で周知するのは難しいのかもしれませんが、少なくともその親や周囲の大人は理解しておく必要があるのかなと感じました。

 

子どもは親や周囲の大人から、社会を学びますからね。

 

その他の子どもの権利についてご興味があればこちらをご参考にしてください。

https://www.unicef.or.jp/kodomo/kenri/

 

おわりに

起きる出来事は当然他の高校生と同じだったりするのですが、生い立ちなどが変わるだけで見え方がこうも異なるのだなと本書を読んで感じたことです。私だったらどういう反応をしただろうかなどと考えながら読むと面白いし、児童福祉に関わる人たちにとっては勉強になる一冊なのかなと思いました。

コメント