こんにちは、世田谷区で税理士をしている井戸川です。
今回は、前回のブログで紹介した成年後見人が利用することができる
『家内労働者等の必要経費の特例』について掘り下げていきたいと思います。
目次
家内労働者等の必要経費の特例とは
どのような特例なのか
少しおさらいですが、成年後見人が受け取る後見人報酬は確定申告が必要ということをお話しました。
これは、後見人報酬はお給料のように年末調整がされるわけではないので、
自身で確定申告をしなければなりません。
その際には、事業所得か雑所得として申告をすることになります。
この事業所得または雑所得にかかる税金は通常、
『収入-経費=利益』
に対して税率をかけて計算します。
利益を計算するうえで経費というのは、いわゆる実費です。
今回ご紹介する家内労働者等の必要経費の特例は、
実費の金額に代えて55万円を経費にしてよいですよという制度です。
要するに、実費が少ない人にとっては、この特例を適用することで、
経費を増やす(利益を減らす)ことができるので、
結果として税金も減らすことができます。
制度の趣旨
この制度は給与所得者との公平性を考慮してつくられました。
詳しい説明は省きますが、
パートなどのお給料からは、給与所得控除という概算の経費が認められているのに対して、
家内労働者(内職)の収入は雑所得として、実費の経費しか認められていませんでした。
内職ではそこまで大きな経費がある訳でもなく、パートなどに比べ税金が高くなることが多かったようです。
しかしながら、パートと内職という働き方の違いだけで、税額が変わってしまうのは不公平であると考えられ、
内職による収入についても、概算の経費を認めようということになったのです。
内職という働き方は最近は少なくなってきたかもしれませんが、
近年も働き方改革の流れの中で在宅ワークや業務委託としての働き方が増えてきており、
この家内労働者等の必要経費の特例も改めて脚光を浴びるような気がします。
対象となる人は誰か
法律の定め
租税特別措置法27条には、「家内労働者に該当する個人、外交員その他これらに類する者」と定められており、
同施行令18条の2には、「集金人、電力量計の検針人その他特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする者」と規定されています。
これだと良くわかりませんので、具体的には次に挙げる人たちをいいます。
①内職で収入を得ている人
②外交員(保険など)
③集金人(NHKなど)
④検針人(電力など)
⑤特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行う人
なお、これらの仕事をしている人でも、お給料としてそれぞれの収入を得ている場合には対象となりません。
特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行う人とは
上記の⑤にある「特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行う人」については、これだけではわかりにくいですよね。
ここで大事なのは、1-2であげた制度の趣旨を考えるということです。
この制度は、働き方のちょっとした違いによって生じる税金の不公平感をなくすことが目的となっています。
そのため対象者は、雇用契約は交わしていないけれども、
会社員やパートさんのように会社に雇用されている人と実質的にはあまり変わらない人と考えることができるでしょう。
会社員は、1つの会社(場合によっては複数社)で、基本的には長期間にわたって、労働をします。
このような会社員の特徴が法令上で「特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行う人」という文言になったわけです。
具体的にどのような人が該当するかというと、
冒頭にあげた成年後見人のほか、
シルバー人材センターから仕事をもらっている人、
就労継続支援B型施設の利用者、
などが挙げられます。
また、最近では、
ウーバーイーツの配達パートナー、
アマゾンのデリバリーパートナー、
働き方改革によって雇用契約から業務委託契約に移行した人、
なども対象となってくるのではないでしょうか。
計算方法
この家内労働者等の必要経費の特例は、経費が少なかった場合に55万円まで経費として認める特例ですが、
そのおおもとの経費とは次の合計額を指します。
①公的年金等以外の雑所得に係る経費
②事業所得に係る経費
③給与所得控除
これらの合計額が55万円未満であれば、家内労働者等の必要経費の特例を適用すると節税になります。
具体例1.公的年金と後見人報酬がある場合
Q.公的年金が100万円、後見人報酬が50万円(経費が20万円)の場合
A.公的年金は今回の計算には含めません。後見人報酬に対する経費が20万円で55万円未満のため、本特例を利用できます。
ただし、後見人報酬が50万円であるため、認められる経費も50万円までとなります。
具体例2.生命保険会社からの年金と後見人報酬がある場合
Q.生命保険会社からの年金100万円(経費が50万円)、後見人報酬が50万円(経費が20万円)の場合
A.公的年金ではなく生命保険会社からの年金に係る経費は合算対象となります。
したがって、50万円+20万円=70万円>55万円となり、本特例は利用できません。
具体例3.給料と後見人報酬がある場合
Q.給料50万円、後見人報酬が50万円(経費が20万円)の場合
A.給料は55万円以下の場合、給料と同額が給与所得控除として認められます。
したがって、今回の場合の給与所得控除は50万円となり、後見人報酬に係る経費20万円と併せて55万円超となるため、本特例は利用できません。
おわりに
少し長くなってしまいましたが、今回は家内労働者等の必要経費の特例についてご説明してきました。
近年はさまざまな働き方があるため、対象となる業務については個別に検討していく必要がありますが、
この特例を頭の片隅に置いておいていただくと良いのかなと思います。
わからないことがあれば是非ご相談ください。