ブログ

2021年08月04日2021年08月04日

所得税

オリンピックの報奨金

こんにちは、世田谷区で税理士をしている井戸川です。

オリンピックも後半戦に突入しましたね。

 

柔道などのメダルが期待されていた種目はもちろんのこと、

新種目であるスケボーでメダルラッシュとなるなど、

日本人選手の活躍が目覚ましく、私も自宅観戦で日々感動をもらっています。

 

特に女子スケボーのストリートで金メダルを獲得した西矢選手が13歳、

パークで銀メダルを獲得した開選手が12歳と聞いて驚きました。

いまや自分より若い世代が活躍するのが当たり前のオリンピックではありますが、

さすがに10代前半選手の活躍は凄いの一言ですね。

 

さて、本日はオリンピックの時期になると必ず出てくる話題。擦りに擦られたネタではありますが(笑)

オリンピックの報奨金にかかる税金についてお話しします。

 

 

 

オリンピックの報奨金

ここではまず、オリンピックの報奨金を支払者ごとに3つに区分したいと思います。

財団法人日本オリンピック委員会と財団法人日本障がい者スポーツ協会からの報奨金

財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」)と財団法人日本障がい者スポーツ協会(以下「JPSA」)は、

オリンピック・パラリンピックにおいて、選手団の派遣など主要な活動を担う団体です。

この2つの団体からは次のように各メダルに対し報奨金が支払われます。

 

金メダル 銀メダル 銅メダル
JOC 500万円 200万円 100万円
JPSA 300万円 200万円 100万円

JOCおよびJPSAの加盟団体からの報奨金

JOCやJPSAはオリンピック・パラリンピックに関わる総合的な団体であるのに対し、

各競技にはその競技をまとめる団体が存在します。

選手選考などは各競技団体が行っていますね。

 

これらの加盟団体からも報奨金が支払われることがありますが、

これはJOCやJPSAのように一律というわけではなく、団体によって差があるようです。

例えばということで、私のスポーツ遍歴から卓球、バドミントン、テニスの各競技団体の報奨金を調べてみました。

 

金メダル 銀メダル 銅メダル
卓球(個人戦) 1000万円 500万円 300万円
バドミントン 1000万円 500万円 300万円
テニス 800万円 400万円 200万円

※卓球およびバドミントンは各競技団体が公表している報奨金規定より、テニスについては報奨金規定は確認できず、ネットからの二次情報による。なお、卓球はダブルスでのメダルは報奨金が折半となる旨規定あり。

 

競技によっては、もっと報奨金が高いところもありますし、報奨金なしというところもあったりします。

東京オリンピック新種目で金メダリストを輩出したスケボー競技を所管するワールドスケートジャパンは、

報奨金を出さない(出せない)というニュースも流れていましたね。

マイナースポーツだとやはり資金を工面するのが大変そうです。

その他勤務先やスポンサー企業などからの報奨金

アマチュアスポーツの場合は会社員をしながらオリンピックに向け努力してきた選手もいるでしょうし、

プロの場合はスポンサーなどがついて大会などを転戦している選手もいます。

これらの勤務先やスポンサー企業からも報奨金をもらえる可能性があるでしょう。

税法上の取り扱いが異なると思われるので、上記2つとは分けて考えていきます。

所得税法の規定

では次に、オリンピックの報奨金について、所得税法ではどのように規定されているでしょうか。

少し難しいですが条文から見てみましょう。

所得税法9条1項14号

所得税法9条は非課税とされるものが列挙されている条文です。

その中で同法9条1項14号は次のように規定されています。

 

オリンピック競技大会又はパラリンピック競技大会において特に優秀な成績を収めた者を表彰するものとして財団法人日本オリンピック委員会、財団法人日本障害者スポーツ協会その他これらの法人に加盟している団体であって政令で定めるものから交付される金品で財務大臣が指定するもの

 

所得税法では、

①日本オリンピック委員会

②日本障がい者スポーツ協会

③これらの加盟団体(政令指定あり)

からもらえる報奨金には税金はかかりませんよと言っています。

③についてもう少し細かい要件がありますので、③の政令指定についてみてみましょう。

所得税法施行令28条1項

JOCとJPSAの加盟団体から受ける報奨金については次のように条件が付け加えられています。

 

法第9条第1項第14号に規定する政令で定める団体は、オリンピック競技大会又はパラリンピック競技大会において実施される競技に関する業務を行う一般社団法人若しくは一般財団法人又は特定非営利活動法人のうち、その運営組織が適正であり、かつ、法第9条第1項第14号の金品の交付を適正に行うことができると認められるものとして文部科学大臣が財務大臣と協議して指定するものとする。

 

加盟団体については、全加盟団体が認められるということではなく、

①組織運営が適正で、

②文部科学大臣に認められた団体

からの報奨金は非課税ですよと言っています。

 

ちなみに、私の検索力不足で文部科学大臣に認められた団体の一覧というのを発見できませんでした。

なので、どの団体が認められていて、どの団体が認められていないのかというのがわかりません。

 

ただ、例えば全日本テコンドー協会は、

2014年頃に組織運営や会計処理が不適切であるとして公益認定の取り消しがされているので、

施行令の要件を満たしているのかはよくよく検討する必要があるかもしれません。

 

また、大前提として法人格が社団・財団・NPO法人に限定されているので、

株式会社などの営利組織や法人格のない任意団体は対象にはなりません。

財務省告示102号(平成22年3月31日)

さて、最後に財務省告示をみてみましょう。

ここに全文を掲載しきれませんので、興味のある方は下記リンクをご確認ください。

財務省告示には、いくらまで非課税なのかが書かれています。表にすると次の通りです。

 

メダルの種類 非課税枠
JOC・JPSAからの報奨金 全額
上記の加盟団体からの

報奨金

 

 

金メダル 500万円
銀メダル 200万円
銅メダル 100万円

 

加盟団体からの報奨金は最初にお話ししたように、競技団体によってもらえる額はさまざまなので、

一定の制限が設けられたということになります。

 

JOCからの報奨金の額と加盟団体からの報奨金の非課税枠が一緒のため、混同してしまいがちですが、

JOCからの報奨金は全額非課税でプラスして加盟団体からの報奨金も一定額非課税になるという規定ぶりとなっています。

 

ご参考

財務省告示102号(平成22年3月31日)

まとめ

財務省告示をみればわかる通り、

JOCとJPSAからもらえる報奨金は全額非課税となり、

加盟団体からもらえる報奨金は非課税枠を超える部分だけ課税されることになります。

また、その他勤務先企業やスポンサー企業からの報奨金には非課税規定がありませんので、全額課税されます。

課税される場合は一時所得?

一時所得と言われる所以

所得税は、その所得の性質によって10種類に区分されています。

10種類それぞれで所得(利益)の計算の仕方が異なるため、どの所得になるのかは非常に重要です。

 

このブログを書く際に色々な見解に触れたのですが、

非課税とならない部分は一時所得になるという意見が多かったです。

 

これは、1992年のバルセロナオリンピックで、

若干14歳の岩崎恭子さんが金メダルを獲得した際に受け取った報奨金について、

一時所得として所得税が課税されたというニュースが流れたことに端を発するでしょう。

 

ただし、当時はオリンピック報奨金の非課税規定がなかった時代における、

JOCから受け取った報奨金に関する取扱いであることに注意が必要です。

つまり、JOCからの報奨金が一時所得であったからといって、

JOC加盟団体や勤務先、スポンサー企業からの報奨金も一時所得になるとはいえないわけです。

 

ちなみに、岩崎恭子さんへの課税報道によって世論が喚起され、

JOCや加盟団体からの報奨金について非課税となる税制改正がなされています。

私見

私見

ここからは、あくまでも私見としてのお話しになりますが、

所得の種類は、メダリストと報奨金を支給する組織との関係性によって変わってくると考えます。

 

例えば、勤務先であれば雇用契約があり、スポンサー企業であればスポンサー契約があります。

スポンサー契約であれば、スポーツでの活躍は当然期待されているでしょうし、

雇用契約でも、スポーツを盛り上げるという意思のもと雇用している企業も多いのではないでしょうか。

だとすれば、会社員としての業務にスポーツでの活躍も含まれると考えてよいでしょう。

 

したがって、勤務先からの報奨金は給与所得、

スポンサー企業からの報奨金は事業所得(または雑所得)に該当すると考えられます。

 

一方、メダリストとJOC加盟団体との間には、雇用契約やスポンサー契約などはないと考えられますので、

JOC加盟団体から受ける報奨金で非課税枠を超える部分の金額は一時所得といえるでしょう。

給与所得とは

所得税法28条には次のように規定されています。

 

給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

 

これだけだと、当たり前だよねとしか感想が出てきませんので、もう少し掘り下げて裁判の判決文をみてみます。

 

社団の理事長に対する債務免除が給与に該当するかどうかが争われた最高裁平成27年10月8日判決において、

「給与所得は、…雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供した労務又は役務の対価として受ける給付をいう」とされ、

「賞与の性質を有する給与とは、…功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与される給付」であると判断されています。

 

今回のオリンピック報奨金に当てはめると、勤務先から受ける報奨金については、

まず勤務先との雇用契約を前提として、オリンピックでのメダル獲得によって、

勤務先に広告宣伝効果を及ぼすものであるから対価性があり、

功労に対する臨時的なものとして賞与に該当するといえるでしょう。

 

一方で、スポンサー企業からの報奨金は、

同様にスポンサー企業に広告宣伝効果を及ぼすため対価性はありますが、

雇用関係にはないことから、給与所得には該当しません。

ここでは詳細は省きますが、事業所得か雑所得に該当すると考えられます。

一時所得とは

所得税法34条では次のように規定されています。

 

一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。

 

要素に分解すると、一時所得とは、

①雑所得を除く他の所得に区分されず、

②営利性がなく、

③臨時的であり、

④労務等の対価ではない所得

ということができます。

 

今回のオリンピック報奨金に当てはめると、勤務先やスポンサー企業から受ける報奨金については、

既に述べたように給与所得や事業所得に該当すると考えられることから、

上記①により、一時所得にはならないということになります。

 

そして、JOC加盟団体から受ける報奨金については、

営利性もなく、臨時的であり、雇用契約やスポンサー契約などの契約関係がないと考えられるため、

対価性を認識することもできません。

したがって、一時所得に該当するといえるでしょう。

まとめ

以上、長々と書いてきましたが、私の中での結論としては次のようになります。

専門家によって見解も異なるのであくまでもご参考にとどめていただければと思います。

 

報奨金の支払者 課税・非課税 所得区分
JOC・JPSA 全額非課税
JOC加盟団体・JPSA加盟団体 金:500万円まで非課税

銀:200万円まで非課税

銅:100万円まで非課税

左記を超える部分の金額は一時所得
勤務先 全額課税 給与所得
スポンサー企業 全額課税 事業所得または雑所得

 

ちなみに、勤務先やスポンサー企業の社長がポケットマネーで報奨金を出します!

ということも考えられるかもしれませんが、これは要注意です。

個人から個人へ金品を渡す場合、贈与税の対象となります。

金額によっては所得税よりも税額が高くなる場合もありますので、冷静に報奨金の額や支給方法を決めましょう。

コメント