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2021年11月16日2021年11月16日

所得税

里親手当に所得税はかかるのか?

みなさん、こんにちは。世田谷区で税理士をしている井戸川です。相変わらず不定期すぎる更新で申し訳ありません。今回は里親手当に対する課税について検討してみました。ご覧いただけると幸いです。

 

 

 

はじめに

10月は里親月間とされ日本各地で里親制度の普及啓発活動が行われています。コロナの影響でイベント自体は中止や縮小などを余儀なくされていますが東京都でも里親経験者の体験談を聞ける里親体験発表会などが開催されています。なのでこの記事は10月にアップしたかったのですが、今日になってしまいました。ただ、東京都では10月・11月を里親月間としているようなので、大目に見ていただければと思います。というわけで今回は里親制度と税制をからめてお話ししていきます。

里親制度

概要

世の中には様々な理由で親と一緒に暮らせない子どもたちが存在します。日本全国で約45,000人、都内でも約4,000人の子どもたちがいるとされています。このような子どもたちの養育を担う施設として大きな役割を果たしているのが児童養護施設です。しかし近年は、より家庭に近い環境での養育を目指す観点から、児童養護施設の小規模化とともに里親制度に力を入れていこうというのが国の方針です。東京都での要保護児童に対する里親等委託率は平成30年度時点で14.3%となっており、令和11年度までに37.4%を目標としているなど、現在は里親制度への転換期であるといえます。

里親制度には4つの種類があり、養育里親、専門里親、養子縁組里親、親族里親にわけられます。養育里親が一般的な里親で、長ければ20歳まで子どもを養育することになります。専門里親とは、障害児など専門的ケアを要する子どもの里親をいいます。今回のお話のメインはこの2つの里親についてです。

詳しくは東京都のホームページのリンクを貼っておきますので、ご興味があればご覧ください。

【東京都の里親制度について】

里親手当

里親のうち、養育家庭里親と専門里親に対しては、里親手当が支給されることになっており、また、里親手当のほかに、教育費や医療費などが支給されます。

養育里親 里親手当 90,000円

一般生活費 52,130円

(ただし、乳児の場合は60,110円)

専門里親 里親手当 141,000円

一般生活費 養育里親と同じ

上記以外に支給されるもの 教育関連費、医療費など

※令和3年度時点

 

私自身は里親でもありませんし、子どもを育てた経験もないので、妥当な養育費用というのはわからないのですが、手当は増額される傾向にあるようです。

里親手当は所得税がかかる?

ここからが本題で、里親が支給を受ける里親手当は、一種の収入として確定申告をする必要があるのでしょうか?各法律をみながら検討していきたいと思います。

所得税法の規定

所得税法では課税される範囲についてこのように規定されています。

 

所得税法7条1号

非永住者以外の居住者 全ての所得

 

非永住者以外の居住者とは、簡単に言うと、日本に住んでいる日本人だと思ってください。それはそうと、たった5文字の「全ての所得」に強烈なインパクトがありますが、所得税法は原則として全ての収入に課税するといっています。極端な話、違法にもうけたお金であっても、税務署は所得税を徴収しにいきます。違法な所得に税金がかからないとなったら、悪人が丸儲けですからね。話は逸れましたが、法の網をかいくぐられない様に、原則としては網羅的に課税対象を定めたということです。

 

一方で例外もあります。所得税法9条には非課税となるものについて規定があり、全部で19項目の非課税収入が定められています。これは以前もご紹介したオリンピックメダリストの報奨金などが挙げられていますが、残念ながら、里親が受け取る里親手当については規定されていません。ちなみに、非課税規定の中には次のようなものがあります。

 

所得税法9条16号

国又は地方公共団体が保育その他の子育てに対する助成を行う事業…により、その業務を利用する者の居宅…において保育その他の日常生活を営むのに必要な便宜の供与を行う業務…に要する費用に充てるため支給される金品

 

条文が長いのでわかりやすいように一部省略しながら引用しました。調べていく中で一瞬該当するのではないかと思いましたが、里親手当は助成ではなく措置費であるということが、細かいですが上記非課税規定に該当しない理由となるでしょう。

児童福祉法の規定

所得税法だけをみれば、やはり課税になってしまうという結論に行きつきます。一方で、所得税の非課税は、所得税法だけに規定されるものではありません。実は、他の法律で所得税がかからないと定められる場合もあるのです。例えば、宝くじが非課税であることは割と有名だと思いますが、これは所得税法では非課税と定められているのではなく、当せん金付証票法に規定されています。

 

当せん金付証票法13条

当せん金付証票の当せん金品については、所得税を課さない。

 

こんな感じで、所得税について他の法律が規定している場合はそれが適用されます。では、里親に関連する法律として児童福祉法では何か規定されていないかというと次の通りです。

 

児童福祉法27条1項

都道府県は、…送致のあつた児童につき、次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。

同項3号

児童を小規模住居型児童養育事業を行う者若しくは里親に委託し、又は乳児院、児童養護施設、障害児入所施設、児童心理治療施設若しくは児童自立支援施設に入所させること。

 

同法49条の2

国庫は、都道府県が、第27条第1項第3号に規定する措置により、国の設置する児童福祉施設に入所させた者につき、その入所後に要する費用を支弁する。

 

同法57条の5第1項

租税その他の公課は、この法律により支給を受けた金品を標準として、これを課することができない。

 

この規定をみれば、里親手当もこれに該当して、非課税となるのかなと思ったりもします。ただ、国税庁の見解として「児童福祉法の規定に基づき里親及びファミリーホーム事業者が支弁を受ける措置費等の課税上の取扱いについて(厚労省事務連絡平成24年12月26日)」が公表され、里親手当は雑所得として課税される旨お達しがあったわけです。この事務連絡では、課税される理由として、児童福祉法57条の5第1項に該当しないからとされています。その心まではわかりませんが、所得税法の非課税規定と同様に厳格な文言解釈にあるのかなと思います。要するに「支給」と「支弁」は別物だということです。どちらも同じような意味合いなのですが、法律の場合は明確に使い分けている可能性が高く、あえて違う文言を使っていることが「支弁」されるものは非課税対象外といわれる根拠となるかもしれません。他の法律の解釈方法については詳しくありませんが、税法は法律の中でも特に文言に忠実に厳格に解釈するという特徴があります。その特徴が垣間見える国税庁見解であるということができるでしょう。

結論

ながながと検討してきましたが、結局のところ結論は、里親手当には所得税が課税されるということになります。前述の事務連絡にもありますが、所得区分としては雑所得となります。

おわりに

個人的な心情としては、里親手当は非課税であってほしいなという気持ちもあります。国の方針としても里親委託を推進していることから、その流れに税制が水を差すようなことはあってはならないと思います。一方で、里親手当が非課税となった場合、そこで利益を得ようとする気持ちが生じてしまうリスクもあるのではないでしょうか。また次回のブログで書こうと思っていますが、里親手当が課税されるといっても、里親手当以上に児童(里子)のために支出をすれば、利益がなくなるため、所得税は生じません。里親手当が年を経るごとに増額されている理由は、里親を通じて社会的養護の必要な児童に対してより充実した支援を行うためでもあると思います。そのような意味で、里親手当への課税は、児童のために惜しみない支援がなされるように背を押すものであってほしいなと思います。

 

 

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