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2022年03月15日2022年03月15日

所得税

暗号資産(仮想通貨)と損益通算

みなさんこんにちは。世田谷区で税理士をしている井戸川です。

いよいよ本日が確定申告期限ですが、みなさん申告はお済でしょうか?

今年はコロナの影響で申告書の提出が期限通りできない方については、簡易な方法で申告期限を延長することも可能です。

最後まであきらめずにがんばってていきましょう。

 

 

はじめに

さて、今年も様々なところで確定申告のサポートをさせていただいた中で、暗号資産(仮想通貨)の損益通算について調べる機会がありましたので、ここで共有いたします。

昔は仮想通貨は怪しいものだと考える人も多かったかもしれませんが、近年は少しずつ市民権を得てきており、税務についても整備されつつあります。

しかしながら、まだまだよくわからない部分も多いというのが私の感じるところです。

というわけで、税金のプロである税理士も手探り状態の仮想通貨に関する税金についてお話していきます。

 

暗号資産(仮想通貨)の所得税法上の取り扱い

仮想通貨取引は、個人でも法人でも可能ですが、今回は個人が仮想通貨取引を行った場合の税務についてみていきます。

まず知っておかなければならないことは次の2つです。

仮想通貨取引における損益は原則として雑所得に区分される。

そして、総合課税の方法で税金計算がされる。

 

総合課税とは、所得区分ごとに利益を計算したのちに、各所得を合算して税金計算する課税方法をいいます。

総合課税のほかに分離課税という方法があり、例えば、株式やFXの損益などが分離課税の扱いとなっています。

要するに、仮想通貨は株式やFXとは取扱いが異なるということです。

将来的には同じような課税方法に統一されるように思いますが、現状は異なるということを知っておきましょう。

 

暗号資産(仮想通貨)の取引が損失の場合

ここからは早速ですが、損益通算のお話にはいります。

まずは、仮想通貨取引で損失が出た場合のお話です。

仮想通貨取引で損失が出た場合、同じ雑所得に区分される利益とは損益通算ができますが、他の所得区分の利益とは損益通算ができません

同じ雑所得に区分されるものとしては、公的年金および民間年金にかかる利益や、事業的規模でない副業から生ずる利益などが挙げられます。

ただし、同じ雑所得でも分離課税とされるものとは損益通算はできません。

そのため、株式の譲渡益やFXの譲渡益などとは損益通算ができないことになります。

 

仮想通貨で損失がでた場合の取り扱いについては、おおよそ皆さまもご理解されているのかなという認識です。

 

暗号資産(仮想通貨)の取引が利益の場合

一方で、仮想通貨での取引が利益だった場合、他の所得と損益通算できるのかを検討していきましょう。

仮想通貨取引で損失だった場合と同じような話にみえて、実は大きく取扱いが異なってきます。

 

雑所得内での損益通算はでき株式やFXの損失とは損益通算できないというところは同じです。

しかしながら、事業所得や不動産所得から生じた損失と仮想通貨での利益は損益通算できるということは、意外と認識されていないように思います。

法的根拠

それでは法律に沿ってみていきましょう。

所得税法では次のように規定されています。

 

所得税法22条2項

総所得金額は、次節(各種所得の金額の計算)の規定により計算した次に掲げる金額の合計額…とする。

 利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、給与所得の金額、譲渡所得の金額…及び雑所得の金額…の合計額

 譲渡所得の金額…及び一時所得の金額…の合計額の二分の一に相当する金額

 

所得税法69条1項

総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する。

 

所得税法69条では、不動産所得や事業所得などで損失がでたときは、総所得金額に含まれる他の所得と損益通算できると規定されており、所得税法22条では、総所得金額には雑所得も含まれると書かれているので、結論として不動産所得や事業所得の損失と雑所得の利益は損益通算できるということがわかります。

 

そうすると、不動産所得等の損失と株式やFXの利益とも損益通算できるのではないかという疑問がでてくるでしょう。

これらについては租税特別措置法において、損益通算できないことが規定されています。

株式については租税特別措置法(措置法)37条の11、FX(先物取引)については措置法41条の14に規定されています。

ここでは一例として、措置法37条の11第1項をみてみましょう。

 

措置法37条の11第1項

…上場株式等の譲渡をした場合には、当該上場株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得…については、同法(注:所得税法)第22条及び第89条並びに第165条の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該上場株式等の譲渡に係る事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額…に対し、上場株式等に係る課税譲渡所得等の金額…の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する。この場合において、上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、同法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかつたものとみなす。

 

このように株式の譲渡益については、所得税法22条では総所得金額に含めると言ったけどそれを無効にします、ということを措置法で規定しています。

所得税法22条の総所得金額に含まれないということは、所得税法69条に規定する損益通算の対象にも含まれないということになります。

 

複雑な法律体系となっていますが、仮想通貨取引による利益は、原則として雑所得に区分され、かつ、株式やFXのように分離課税とされるものには含まれていないため総合課税となり、仮想通貨取引による利益は不動産所得や事業所得による損失と損益通算できるというのが結論です。

 

仮想通貨取引の税金で今後注意すべきは、租税特別措置法に暗号資産(仮想通貨)の規定ができるかどうかです。

株式やFXと同様な規定ができたとすると、雑所得として分離課税となり、他の所得とは完全に損益通算不可となる可能性もでてきます。

仮想通貨取引をされている方は所得税法だけでなく、租税特別措置法も要チェックです。

 

おわりに

私がなぜこの記事を書こうと思ったかというと、freeeさんが主宰しているFAQに今回の事例についてご質問されている方がおり、それに対し多くの税理士が誤った回答をされていたのを目にしたからです。

いや、もしかしたら私の方が間違っているのかもしれません・・・

どの税理士を信じるかは、あなた次第です。

 

まぁ、言ってしまうと税理士であっても完璧に税金を理解しているわけではありません。

慎重に調べたつもりですが、税理士の方、当事者の方、ご指摘等々お待ちしております。

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