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2022年02月14日2022年02月14日

所得税

里親の確定申告

みなさん、こんにちは。世田谷区で税理士をしている井戸川です。

少し前になってしまいましたが、前回のブログでは、里親が受け取る里親手当には雑所得として所得税が課税されるというお話をしました。一方で、里親手当以上に里子のために費用を支出しているのであれば、もうかっているわけではないので、実際には所得税の問題は生じないということもお伝えしました。

そこで今回は、里子のために支出した費用について詳しく見ていきたいと思います。

 

所得税の基本的な考え方

所得税では、受け取る収入を10種類にわけています。いずれの種類であっても基本的には、収入から経費を引くところから始まります。里親手当が該当する雑所得においても例外ではありません。

 

所得税法35条2項2号

その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額

 

計算式に表せば、次のようになります。

総収入金額 - 必要経費 = 雑所得となる金額

 

総収入金額となる里親手当や一般生活費などの受け取る金額に難しい点はないと思いますが、やはり問題は必要経費となる金額が何なのかということでしょう。

 

ところで、所得税がいくらになるのかは、上記算式で計算された雑所得の金額のほか、給与所得や事業所得など他の所得を合算したうえで、所得控除(基礎控除、扶養控除、社会保険料控除など)を差し引いた課税前所得に対して税率をかけて計算していきます。そのため、里親手当等の収支だけで所得税額が算出できるわけではないのでご注意ください。

 

必要経費とは

概要

私たちが支出する費用は大きく3つにわけられます。

 

①収入を得るために支出した費用(必要経費)

②生活をするために支出した費用(家事費)

③上記2つに共通して支出した費用(家事関連費)

 

ここで必要経費となるのは、①の収入を得るために支出した費用と③の共通して支出した費用のうち一部ということになります。支出をこの3つに区分するのは、一般的な個人事業を営んでいる人であってもなかなか骨の折れる作業です。里親のように生活に密接した支出が多くなる場合にはより大変になると想像できます。支出した費用が必要経費なのか家事費なのか家事関連費なのか、区別がしにくいということが里親の確定申告における難題といえるでしょう。

 

家事関連費とは

仕事とプライベート両方の性質を持つ支出を家事関連費といいますが、原則として家事関連費は必要経費にすることはできません。ただそれではあまりにも極端すぎるということで、家事関連費のうち次に該当する場合には必要経費にすることができると定められています。

 

所得税法施行令96条

 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費

 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費

 

必要経費にできる家事関連費は、青色申告をしているのかどうかで要件が異なってきますが、里親手当が該当する雑所得においては、そもそも青色申告ができないため所得税法施行令96条1項1号の規定を見ていくことになります。ここで気になるのは、2号にはない「経費の主たる部分が…雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」という要件でしょう。

この点について所得税基本通達45-2では、主たる部分の考え方として「その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。」と言っています。そのため、仕事部分の割合が50%以下の場合には、より客観的で明らかな根拠が必要になると言えます。

 

里親の場合

改めて、里親の場合における必要経費に分け方について考えてみましょう。

一般的な考え方としては、①収入を得るために支出した費用、②生活をするために支出した費用、③上記2つに共通して支出した費用に分けて、①と③の一部を必要経費にしていくということをお伝えしました。①に当てはまるものとしては、里親として活動するために支出した書籍代、勉強会代、懇親会代などがあります。これらは当然に必要経費とすることができますが、ここでは非常に分けにくい生活費をメインに考えていきたいと思います。

 

さて、一般的な区分として①~③を挙げましたが、これを里親の場合に置き換えると、

①里子のためにだけ支出した費用(必要経費)

②里子以外の家族のためにだけ支出した費用(家事費)

③家族全体のために支出した費用(家事関連費)

ということができるでしょう。

 

ここからは上記の①~③に該当するものを具体的にみていきましょう。

①に該当する支出は例えば、里子の部活動や塾に関する支出、医療費やお小遣い、おもちゃ代や勉強机代などが挙げられます。明確に里子のためにだけ使ったといえるのであれば①に入ります。②に該当する支出とは、職場での飲み会代などでしょうか。そして、③に該当する支出が多いのではないかと思いますが、家賃や水道光熱費、食費やインターネット代など、家族として支払っているものはおおむね③に該当するでしょう。

 

ところで、③は最終的に何%を必要経費にできるのでしょうか?

 

簡単な方法としては家族の人数で割るという方法が考えられます。例えば、夫婦と里子の3人家族であれば、③の3分の1を必要経費に、夫婦と実子と里子の4人家族であれば4分の1を必要経費にする方法です。割合が50%以下であっても必要経費にすることができるというのは先に検討した通りです。

私見としては、この人数割でも良いのではないかと考えています。しかしながら、人数割がはたして里子に対する支出を客観的にも明らかに抽出できているかというと完全ではありません。税務署の目線でみれば、幼少期の里子がいる場合について、食費が人数割りになるなんてありえないでしょ、という指摘も成り立ちます。

 

そのため、人数割りなどの簡単な割合を用いるか、もっと具体的に費目ごとに割合を検討していくかという事務負担の大小と、それに対する税務リスクの増減というのはバランスしていくのかなと思います。ただ少なくとも、大変かもしれませんがこまめにレシートを整理して①~③の区分けはしていくということはしていただいた方が良さそうです。

 

扶養控除と児童手当

扶養控除

確定申告や年末調整をする際、扶養している親族がいる場合には扶養控除として一定額の所得控除を受けることができます。ところで、里子も扶養親族に入るのかという疑問が出てくるかもしれません。答えは、もちろん扶養控除の対象となります。

 

所得税法2条1項34号

扶養親族 居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)並びに…里親に委託された児童…でその居住者と生計を一にするもののうち、合計所得金額が四十八万円以下である者をいう。

 

このように法律上も明確に扶養親族になることが定められています。なお、16歳未満の場合には児童手当がもらえるため、扶養控除の対象とならないのは実子の場合と同様となります。

 

児童手当

扶養控除で解説した通り、16歳未満の場合には児童手当を受け取ることができます。この受け取る児童手当については、所得税は非課税となっていますので、雑所得に混ぜないようご注意ください。なお、非課税となる根拠は所得税法ではなく児童手当法に規定されています。

 

おわりに

ここまで、里親の確定申告について、必要経費とは何かを中心に考えてきました。必要経費を細かく見ていくとなかなか大変ですが、とりあえず支出を3つに分けると考えれば少しは確定申告のハードルも低くなるのではないでしょうか。里親となるためには、子を養育する力だけではなく、確定申告などオールマイティな力が求められるのだなと改めて感じました。そんな里親さんのお役に少しでも立っていれば幸いです。

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