みなさん、こんにちは。
世田谷区で税理士をしている井戸川です。
急な話ですが、
自営業をするにあたっては家族の協力は必要不可欠ですよね。
単純に応援してくれているということはもちろん、実際に事業を手伝ってもらうということも少なくありません。
今回は、そんな家族に支払う給与、いわゆる専従者給与に関するお話です。
専従者給与とは
個人事業の場合、生計を一にする家族に対して支払う給料等は原則として必要経費にすることができません。(所得税法56条)
ただし例外として、青色申告者の場合には、事業専従者の届出書を提出し、そこに記載した金額の範囲内で家族に支給した給与については必要経費にすることができるというのが専従者給与です。(所得税法57条1項)
また、白色申告者の場合には、家族への給与支払額に関係なく、配偶者の場合には86万円、その他の事業専従者の場合には50万円と一律に必要経費にできる金額が定められています。(所得税法57条3項)
※ただし所得金額によって制限があります。
事業専従者という名のとおり、その事業に専ら従事していることが1つの要件となっているのですが、この専ら従事についてしばしば争いになることがあります。
今回はそこをメインにお話していきます。
専ら従事とは
事業専従者として認められるためには、どの程度働いていれば良いのでしょうか?まずは法令をみていきましょう。
所得税法施行令165条1項
法第五十七条第一項又は第三項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が専らその居住者の営むこれらの規定に規定する事業に従事するかどうかの判定は、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて六月をこえるかどうかによる。(以下、ただし書き省略)
ここでは、期間的要因として、年の半分である6か月は専ら従事してくださいねと規定されています。
さらに、専ら従事とは言えない場合について次のように規定されています。
所得税法施行令165条2項
前項の場合において、同項に規定する親族につき次の各号の一に該当する者である期間があるときは、当該期間は、同項に規定する事業に専ら従事する期間に含まれないものとする。
一 学校教育法第一条(学校の範囲)、第百二十四条(専修学校)又は第百三十四条第一項(各種学校)の学校の学生又は生徒である者(夜間において授業を受ける者で昼間を主とする当該事業に従事するもの、昼間において授業を受ける者で夜間を主とする当該事業に従事するもの、同法第百二十四条又は同項の学校の生徒で常時修学しないものその他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)
二 他に職業を有する者(その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)
三 老衰その他心身の障害により事業に従事する能力が著しく阻害されている者
各号に掲げられているように、学生、ほかに仕事をしている人、仕事をするのが困難な人は専ら従事しているとは言えないということになります。
他に職業を有する者とは
概要
さらに詳しく見ていくと、「他に職業を有する者」は専ら従事とはいえないけれども、例外として、「その職業に従事する時間が短い者」などは青色事業に専ら従事していると考えても良いとされています。
(所得税法施行令165条2項2号カッコ書き)
学生の場合であっても、夜間学生が昼間の青色事業に従事している場合などは専ら従事していると認められることから、実態として青色事業に専ら従事しているのかどうかという点が基準となっているのではないかと思います。
それでは、具体的には他の職業がどの程度のものであれば青色事業に専ら従事していると認めてもらえるのでしょうか?
次に過去の裁判例などを参考にみていきましょう。
裁判例等
東京高裁H29.4.13
東京高裁は、東京地裁H28.9.30の判決をほぼ引用し、次のように判決しています。
他の職業に従事する時間がおよそ短く、当該事業に専ら従事することが妨げられないことが一見して明らかであるかどうか、さらには、上記に当たらない場合を含め、当該事業及び他の職業の性質、内容、従事する態様その他の諸事情に照らし、実質的にみて当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められるかどうかによって判断するのが相当である。
そして、具体的な判断にあたり次のように事実関係を整理されています。
1日の業務のうち、甲事務所(筆者注:青色事業)の「通常時勤務時間」は、7~8時間程度であるのに対し、関連会社3社(筆者注:他の職業)での「通常時勤務時間」は、合計で2時間30分以内とされているのであって、しかも、原告及び乙の供述等を踏まえても、特に、代表取締役の地位にあったA社に関する乙の業務には相応の事務量があること自体は否定し難いものであり、これらの業務については、同社の事務所に赴いた時のほか、主として自宅又は甲事務所において従事していたことになる(なお、この点だけをみても、他の職業に従事する時間がおよそ短く、当該事業に専ら従事することが妨げられないことが一見して明らかであるということは困難である。)。そして、乙は、いずれも1年の売上高が1000万円を優に超える規模の関連会社において、代表取締役又は取締役として業務に従事しており、その役員報酬の合計額は、平成21年分が960万円、平成22年分が920万円、平成23年分が960万円であり、甲事務所に係る本件各給与の額(平成21年分が675万円、平成22年分が572万円、平成23年分が530万円)をはるかに超えるものというべきであり、このうち、A社についてみても、乙は、代表取締役であるとともに宅地建物取引主任者の地位にあったのであり、その報酬として、平成21年分に120万円、平成22年分に160万円、平成23年分に240万円を得ていたことになる上、乙は、これらについて、所得税の確定申告をしているのであるから、自ら業務に見合った報酬を得ていることを自認しているものというべきであるのに対し、上記ウのとおりの原告及び乙の供述等によれば、上記のような報酬額に見合う業務は、およそしていないことになるのであって、かかる原告及び乙の供述等には、これを合理的に裏付けるものがないというほかはない。
ここから読み取れるのは、青色事業と他の職業の比較として、勤務時間、立場や業務量、そして収入が検討材料として挙げられているということです。
したがって、専ら従事しているかどうかを判断するに当たっては裁判例と同様に青色事業と他の職業とを比較していく方法をとって検討すると良いといえます。
なお、一番重要なのは恐らく「勤務時間」です。
所得税法施行令では、「その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。」と規定されていることからも、まず時間を比較検討するのが良いでしょう。
裁判例等一覧
判決日 | 青色事業 | 専従業務 | 専従者給与 | 他職の業務 | 他職の給与等 | 判決 |
東京高裁
H29.4.13 |
税理士業 | 所長代理
1日7~8時間 |
530万円
~675万円 |
3社の取締役・宅建士
1日2時間半(時間競合) |
計920万円
~960万円 |
× |
名古屋地裁
H13.5.30 |
医業 | 医療事務
|
540万円 | アルバイト
年86日~123日 9時半~17時半 |
不明 | △(青専の可否では争われず、過大給与否認。)
適正給与136万円~207万円 |
不服審判所
H16.6.28 |
医業 | 医療事務
|
不明 | 不動産管理会社の代表取締役
1か月1時間程度 |
不明 | 〇(詳細に専従勤務実態の証拠を提出) |
不服審判所
H15.3.25 |
医業 | 非常勤医師
週1日 |
1255万円
~1363万円 |
他4医院にて非常勤医師
週4日、8時半~17時半等 |
計1997万円
~2015万円 |
× |
不服審判所
S62.12.25 |
司法書士業 | 司法書士補助
9時~17時 |
48万円
~56万円 |
ピアノ調律師
年247日~276日(時間競合) |
事業収入483万円~498万円 | × |
不服審判所
S57.3.24 |
医業 | 非常勤医師
週1日 |
不明 | 開業医・2社の代表取締役
年平均230日 |
事業収入2100万円 | × |
ここでは最初に挙げた裁判例のほか、他の職業に従事していた青色事業専従者の給与について争われた事例をまとめてみました。
ご覧いただいて何となく感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、否認されている事例については「そりゃ否認されるだろ」と思ってしまうものも多いです。
一方で納税者が勝っている事例の不服審判所H16.6.28は、証拠資料として青色事業での勤務実態のわかる資料を多数提出し、かつ、他の職業における勤務時間が僅少であることも示していたため、不服審判所の判断にも大きく影響したと思われます。
また、名古屋地裁H13.5.30は、争点が専ら従事しているかどうかではなく、専従者給与が過大かどうかであったため、参考にはならないかもしれませんが、税務署側が専ら従事を争点としなかったことを考慮すれば、他の職業がアルバイトの場合には否認されにくいのかなと推測することもできます。
まとめ
少し長くなってしまいましたが、裁判例なども参考に他に職業がある場合の青色事業専従者の該当性についてみてきました。青色事業と他の職業における、勤務時間、業務内容、収入などを比較していくことで少しは青色事業専従者と認められるかどうかがわかってきたのではないでしょうか。
一方で、青色事業と他の職業との相対的な基準で判断することは都度判断をしなければならないような煩雑さも生じ得ます。例えば、コロナ禍によって青色事業の売上が落ちてきたので、補填するために配偶者にパートに出てもらったとした場合に、青色事業専従者ではないと判断されるとすれば、納税者にとっては往復ビンタをくらうようなものです。もう少しわかりやすい絶対的な基準が設けられると良いのかなと私自身は感じています。