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2022年10月14日2022年10月14日

所得税

続・副業収入の所得区分

みなさん、こんにちは。世田谷区で税理士をしている井戸川です。

前回からブログの更新が滞っており申し訳ありません。更新をしていない間にちょうど前回記事にした副業に関する通達改正について進展がありましたので、改めて筆をとらせていただきました。

 

前回のブログ記事『副業収入の所得区分』はこちらから

 

副業に関する所得税の取り扱いについて、事業所得と雑所得の区分をもう少し明確にしようと国税庁が通達改正のパブリックコメントを出したのが2か月前。普段、税務関連のパブリックコメントでどの程度の意見が届くのかはわかりかねますが、今回は7059件もの意見が届き関心の高さが伺えます。また、通常はパブリックコメントをしたとしても国税庁が提示した通達改正案は既定路線であるとの見方が多かったなかで、なんとパブリックコメントを考慮して通達改正案を修正してきたことも界隈を驚かせました。

 

というわけでさっそく通達改正案の修正版についてみていきましょう。

 

通達改正(修正版)

ここではまず、通達の修正について変遷をまとめておきます。今回の通達改正のお話は所得税基本通達35-2に関するものです。

 

旧通達

次に掲げるような所得は、事業から生じたと認められるものを除き、雑所得に該当する。

(1) 動産(法第26条第1項《不動産所得》に規定する船舶及び航空機を除く。)の貸付けによる所得

(2) 工業所有権の使用料(専用実施権の設定等により一時に受ける対価を含む。)に係る所得

(3) 温泉を利用する権利の設定による所得

(4) 原稿、さし絵、作曲、レコードの吹き込み若しくはデザインの報酬、放送謝金、著作権の使用料又は講演料等に係る所得

(5) 採石権、鉱業権の貸付けによる所得

(6) 金銭の貸付けによる所得

(7) 不動産の継続的売買による所得

(8) 保有期間が5年以内の山林の伐採又は譲渡による所得

 

通達改正案(パブコメ前)

次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当する。

(1)~(6) 変更なし

(7) 営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得

(8) 変更なし

(注) 事業所得と業務に係る雑所得の判定は、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するのであるが、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない。

 

新通達(パブコメ後)

次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当する。

(1)~(8) 改正案から変更なし

(注)事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。

なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(資産(山林を除く。)の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得)に該当することに留意する。

 

考え方

新通達では改正案で見られた3要件(主たる所得でない・収入300万円以下・反証なし)を大幅に簡素化し、「帳簿書類の保存がない場合」には雑所得に該当するという非常にわかりやすい基準となりました。

 

帳簿書類とは何かといえば、総勘定元帳や仕訳帳など取引が記録したものを帳簿といい、その記録をする根拠となった領収証や請求書などを書類といいます。帳簿書類を作成し、保存しておくということは一般的な事業者であれば当たり前に行っていることであり、副業に関する所得区分の線引きをそこに持ってきたというのは結構思い切った判断であると私は感じます。

 

一方で、「帳簿書類の保存がある場合」には事業所得になるとは通達上は明記されていません。しかしながら、パブリックコメントの結果に関する国税庁の見解として、「この修正により、収入金額が300万円以下であっても、帳簿書類の保存があれば、原則として、事業所得に区分されることとなります。」と記載されており、通達の文言としては反映されていないものの、帳簿書類の保存があれば事業所得として区分しても良いということがわかります。

 

ただし、しっかり過度な節税を牽制する見解も示しています。

国税庁がこの度公表した『雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説』では、帳簿書類の作成保存があれば事業所得と認めつつも、個別判断が必要な事例として次のような場合を挙げています。

 

(1)副業収入が僅少である場合

直近3年程度で、副業収入が300万円以下で、主たる収入と比較して収入金額が10%以下である場合。

(2)副業に営利性が認められない場合

直近3年程度で、副業が赤字であり、赤字解消の取り組みもしていない場合。

 

このように、副業に関する所得税の取扱いについては、パブコメを経て修正を加えたうえで通達の改正に至りました。適用については引き続き令和4年分の確定申告からとなっております。

 

私見

私は当初の通達改正案にも概ね賛成の立場でしたが、次のような問題点もあったのだろうと思います。

 

(1)副業ではなく複業をしている場合、「主たる所得」の要件につき年度によって都度判断を強いられる。

(2)改正趣旨が給与所得と副業赤字の損益通算による過度な節税対策であるとするならば、この改正によって正当に副業している納税者まで青色申告のメリットを奪ってしまうことになる。

 

いずれも反証することによって事業所得と認めてもらうことは可能であると考えていましたが、やや不安も出てしまうところだったと思います。そこで今回の新通達へと修正することで、『複業』社会に配慮したうえで、より公平な納税を確保しようと改善されたものと考えられます。通達に明記されていませんが、国税庁が公表した通達の解説において、給与所得と副業赤字の損益通算による過度な節税を牽制した点も評価できると私は思います。

 

おわりに

今回は通達の改正であり法律の改正とは異なりますが、国税庁がパブリックコメントによって民意を反映させたうえで通達改正を行ったというプロセスは非常に重要であったと思います。今回は副業に関する税務という興味関心を持ちやすいテーマであったわけですが、日本の納税者が税金に興味を持つ良いきっかけになったのではないかと思います。税金というテーマは難しく敬遠されがちですが、まずは興味をもつことでルールを変えることもできるということを知っていただき、引き続き税金に興味をもっていただけたらなと思う次第です。

 

 

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